仙夜一夜物語

第69回「玄米食への道(11)」

 電話した翌日に福井から仙台まで飛んできた仙一を、温かい握手で食品会社の菊池社長は迎えてくれた。運命の出会いだった。
 会うなり仙一は、自分の農業や食に対する考え方や今回お願いしたい製造方針などを一気にまくし立てた。菊池社長には仙一の本気度が痛いほど分かった。自分も本物の食を追求するのに随分と苦労したからだ。
 工場見学をした時には、逆に仙一のほうが驚かされた。自分自身が定温倉庫や農作業工場に実施した様々な工夫や、これから改善してゆきたいと思っていたこだわりを既に菊池社長は実践していたからだ。もちろん食品製造用の水は脱塩素したものであったし、隠し味の塩は自然塩を使用していたのだ。
「私も、いろいろな食品工場を見学させて頂きましたが、ここまでこだわりぬいた工場は初めてです。是非、菊池社長のところで私の玄米粥を作っていただけませんか?」
と仙一がお願いするやいなや、
「牧野さんからは学ぶことが沢山あります。牧野さんが目指す有機栽培への想いを、私は食品工場で引き継ぎ実践してゆきたいので、ぜひ玄米粥を作らせて下さい。そして共に学ばせて下さい」
という菊池社長からの即答があった。
 初めて会ったとは言え、お互いを本物と認め尊敬し合えた出会いだった。菊池社長は仙一より十歳年上だった。この出会い以来二十年近く、菊池社長は何かにつけ仙一を自分の得意先様に紹介し、次々と商談をまとめてくれた。仙一も経営など色々な相談に乗ってもらい、菊池社長を兄のように慕っている。まさに運命の出会いだったわけである。
 仙一は菊池社長との出会いを思うとき、敬愛する森信三先生の言葉が浮かぶ。

「人生、出会うべき人には必ず出会う。しかも、一瞬遅からず、早からず。
 しかし、内に求める心なくば、眼前にその人ありといえども縁は生じず」

まさに、この言葉を地でゆくような出会いであった。分野は異なるけれど、「人に良い、本当の食」を求める者同士の出会いであった。

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