仙夜一夜物語

第41回「残留農薬検査へのこだわり(2)」

 元々、営業マンだった仙一は、これから自分が作る米についても、「農薬を使っていない安全な米だ!」と自信を持って売りたかった。有機栽培だとか、特殊農法だとか、そういったことを声高に言うつもりはなかったが、生き物でいっぱいの田んぼで作った自分の米と、生き物が全く棲んでいないよその田んぼの米...、どこかで線引きをしたかったのである。それは、お客様のため、というよりも、むしろ自分のためでもあった。
 自分で農業をやるようになってから、仙一はある不安を持っていた。マイセンの田んぼの隣には、通常農法の田んぼがあり、そこでは農薬を使っている。田舎の、このあたりでは、農薬を散布する時期になると、場所によっては窓も開けられない日もあるくらい、風が吹くと、どんどん農薬が飛んでくるし、同じ用水路を使ってるのだから、水にも流れ込んでくるだろう。それには、当然農薬も混じっているはずだ。いくら自分で農薬を使わないとはいえ、こんな環境で本当に安全なのか?
 確かに、うちの田んぼには、ドジョウもタニシもうじゃうじゃと棲んでいる。だが、果たしてそれだけで、安全、安心と、言い切れるか? 自分で疑問を持ちながら、お客様には「安全です!」などとは、とても言えるものではなかった。
 「誰が見ても安全だとわかってもらうには、どうすればいいんだろう?」
 答えはさほど難しくない。とれた米に農薬が残っていないことを証明すればよい、つまり化学的な残留農薬検査をしてもらえばよいのだ。
 だが、それを実行に移すとなると、そう簡単ではなかった。
 約20年前の当時は、農作物に残留農薬検査を行うなんてことは、農協や米屋でも聞いたことがなかった。どこに出せば調べてくれるのか、どういう基準を調べるのか...全てが手探りだった。
 それでも、色々と調べるうちに、なんとか検査をしてもらえそうなところは見つけた。何を検査してもらうかについても、日本で主に使用されている農薬を調べあげて、約200項目について自主的な基準も決めた。
 とりあえず、これで検査してもらおう!
 玄米のサンプルと、自分で調べ上げた検査項目の一覧を持って、意気揚々と検査機関に乗り込んだのだが...。
 対応してくれた研究員は、開口一番こう言ったのである。
 「正気ですか?」

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