仙夜一夜物語

第18回「不耕起栽培への挑戦(4・完)」

 田んぼ1枚で試した不耕起栽培テストは、大成功だった。「これならば規模を拡大してもやっていけるかもしれない!」
 いよいよ次の年には、不耕起栽培を行う田んぼを当時の耕作地全体の1/3(およそ5ha)まで拡大させることにした。
 前年と同様、昔ながらの方法で不耕起栽培に耐える苗を作った。苗をなるべく劣悪な環境におき、一切人工的な手間をかけずに育てると、びっくりするくらい立派な苗になる。
 「これを植えたらすごいぞ!!」
 あまりの見事さに、この苗を通常農法を行う田んぼにも使うことにした。苗半作といい、苗の出来が1年を左右する。こんなすごい苗を植えたら、普通の田んぼでもすごい米ができるに違いない!仙一は、今から秋の収穫が楽しみで仕方なかった。
 前年活躍してくれた機械を使い、4月の前半には滞りなく田植えが終わった。
 ところが田植えをしてから数日後。なんだか苗の様子がおかしい。田んぼに特に異常はない。水が干上がってることもないし、虫や鳥が大量発生しているわけでもない。1週間たつと、さらに苗の様子が変わった。なんと枯れ始めたではないか!
 慌てて、苗を引っこ抜いて調べてみる。
 「なんだこりゃ???根がないぞ!!」
 田植え機で苗を植えつけるときに、植付ツメというもので苗をひっかけて植えつけるのだが、仙一の作った苗はあまりにも立派すぎて、ひっかけるときに根が切れてしまっていたのだ。それでは、枯れるのも当たり前だった。不耕起栽培用に機械の改造はしたけれど、植え付けの部分まで想定はしていなかった。
 当然ながら、不耕起栽培用以外の田んぼの苗も全部だめになった。これでは今年の収穫はゼロだ。慌ててもう一度種をまいて苗を作った。普通の作り方に戻し、機械の規格に合わせた苗にした。しかし、苗を育てるためのビニールハウスもないから、田んぼに育苗箱を並べたとたんにカラスや雀たちの集中攻撃を浴びて半分ほどはダメになった。仕方ないので、仲間の農家のところを走り回って、なんとか苗をかきあつめた。もちろん、一般的な作り方をされたものだから、とてもきゃしゃな苗だし、仙一のイメージとはまるで違っていたが、この際えり好みをしてはいられなかった。
 「悲惨」の一言だった。全ての苗がダメになったと聞いた父親は、心配のあまり寝込んでしまった。いくら自分の夢のためとは言え、あまり無茶をするものではないなと痛感したのもこの時だった。
 根が切れてしまうことは想定外だったが、これも機械を改良することで対応できないかと、植付ツメの改造もしてみた。太い苗に合うように、ツメのところをヤスリでけずって作ったが、手作りなのでとても弱い。すぐに折れてしまい、何度も取り替えるハメになった。費用もかさんだし、折れるたびに作業は中断されて、恐ろしく時間もかかった。
 ただでさえ不耕起栽培は、通常の農法の3~5倍の時間がかかるのに、機械を使っても効率化できないのであれば、これでやっていくことはできない。会社として利益をあげていくためには経済性が悪すぎるのだ。
 それに、実際に不耕起栽培をやってみることにより、不耕起栽培の欠点、つまり耕すことによる利点もわかった。耕すことで水田の水が漏れないようになるし、田がならされて平らになる。耕さない凸凹の田んぼだと、苗が水没してしまうのだ。
 そんなわけで、不耕起栽培を会社として大々的に行うことはあきらめた。
 しかし、実は、仙一は次の年も不耕起栽培を1枚の田んぼでだけ行っている。不耕起栽培だと、たった1年で、田んぼが動植物のパラダイスになる。普通の有機栽培だと3年もかかるのに。マイセンで不耕起栽培をすることはあきらめても、やっぱり不耕起栽培は仙一の性に合っているのだ。いつか最前線を退いたときに、また不耕起栽培をやってみたいなぁ...ひそかな仙一の夢である。

バックナンバー