仙夜一夜物語

第17回「不耕起栽培への挑戦(3)」

 不耕起栽培を目指すにあたり、機械のことが一番頭の痛い問題だった。
 自分達だけ生活できればよいわけではなく、従業員も養わなければいけない。事業として、大規模に不耕起栽培を成功させるには、不耕起栽培用の農機を調達し、効率よく農作業ができることが必要だった。
 田植え機は、田起こしをした柔らかい田んぼに、ハウスで育てられた小さな苗を植えることを想定しているが、不耕起栽培では田起こしをしない固い土に、大きく育った苗を植えることになる。普通の田植え機では地面に負けてしまうし、苗のサイズも違う。かといって、何ヘクタールもの田んぼを手作業ですることなど到底無理だ。
仮にできたとしても、人手がかかりすぎ、お客様が日常的に買える値段の米にはできない。
 何とか不耕起栽培で使える農機がないものかと、いくつもの農機メーカーを渡り歩いた。自分がやりたいと思っていることを手助けしてくれる機械はないか? 全く話をわかってくれない人もいたし、不耕起栽培には賛同しても、機械で大規模に行うことは無理だ、と拒否されることもあった。
 しかし仙一はあきらめなかった。
 仙一がラッキーだったのは、その当時は、農業を取り巻く環境そのものが変化しようとしていた時期だったことだ。農業の自由化に向けて進んでいく状況の中で、目端の利く農機メーカーの中には新しい農法を模索しているところもあった。その中には、仙一のような「変わり者のための機械」もなくはなかったのだ。
 仙一のアイディアを話すと、メーカーも話にのってきた。専門家の立場からアドバイスをもらいながら、ああでもない、こうでもないと相談した結果、中古の田植え機を改造することになった。大きな苗を、固い土に植えるために、田んぼに3~4センチの幅で筋をつけて、そこに植えることができるようにするのだ。
 
 こうして準備が整った。
 苗も上手く育った。機械も、通常の田植えよりも時間はかかったものの、手作業よりはうんと効率よく作業をしてくれた。
 一応の成功だった。
 実際に苗たちが育ってみて驚いた。コシヒカリを植えたのに、コシヒカリの姿ではない。ガッチリしたススキのような稲になり、軸も太い。稲穂も大きく、数も多かった。生長スピードは普通の稲に比べると遅かったが、とれた米粒は大きく、味もうまかった。
 耕さないから、普通の田んぼが、いきなり有機栽培の田んぼのようになった。色んなものが棲む、わけのわからない田んぼ。たにしやドジョウなどの水棲動物がうじゃうじゃいて、鳥がいっぱい。まさに「自然」だった。
 初の不耕起栽培は大成功だった。これなら、不耕起栽培でやっても食っていけるかもしれない!仙一は期待に胸をふくらませた。
 ところが、なかなかそう簡単にはいかないものである。問題は次の年に起こった。

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