仙夜一夜物語

第21回「仙一、オーストラリアへ行く(3)」

 オーストラリアは、生産高はさほどではないが輸出高では世界第10位に入る。そのオーストラリアでの稲作の中心地が、ニューサウスウェールズ州リベリナ地方の都市リートン。1920年にアメリカ・カリフォルニアから入手した品種に改良を重ねて、現在でも中粒種の生産が8割を占める。(注:中粒種=タイ米などの長粒種と日本米の短粒種の中間の品種)日本に緊急輸入されたときに、その食味の良さで話題にもなった。
 シドニーの西約600キロに位置し、車で約10時間。辺りは一面の砂漠である。
 「こんなところで田んぼができるんか?」「水は一体どうしてるんだ?」
 仙一にとっては他人事ではない。オーストラリアでの稲作のほぼ9割を占めるこの都市で、もしかしたら仙一も稲作をするかもしれないのだ。日本の常識でいえば、こんな砂漠で稲作をすることは考えもつかない。そんな土地柄で、どうやって世界ランキングに入るほどの輸出量を確保できるだけの収穫量をあげているのか、知りたくてたまらなかった。
 砂漠の中に突然、緑の大地が現れる。のんびりと草を食む羊たちが続く牧草地帯が、やがて水田に変わる。その部分だけを見ていると、とても砂漠のど真ん中にあるとは思えない豊かな土地である。
 一行が最初に訪れたのは、野菜を中心に800ヘクタールの耕作農地を有するリチャードさんの農場。その800ヘクタールのうちお米が140ヘクタールを占めていた。大型バスに乗ったまま、リチャードさんの案内のもと、農場内の農道を移動する。すごい光景だった。それこそ地平線が見えそうなくらい一面に続く農地。
 その広大な農地を、徹底した分業とコスト管理で運営していた。肥料や農薬の散布は、全てセスナを使う。そのセスナも、自分でも所有しているにも関わらず、他に委託をする。そのほうが安くあがるからだ。
 地元の農業試験場と連携していて、航空写真でリアルタイムに稲の生育状況がわかる。そして肥料管理もこの試験場が行うのだ。ではリチャードさんは何をするのか?種をまいたら何もしない。ただ、水管理をするだけなのだ。
 水管理!それがオーストラリアの農業を決定する一番大きな要因だった。砂漠の中にあるので、当然水資源は豊かではない。限られた水は各ファームごとに割り当てが決まっていて、この水を確保するのに一番コストがかかる。そのため、農地の拡大をしようと思っても容易ではなかった。土地はいくらでもあったが、その土地を肥沃な農地とするだけの水には限りがあったのだ。そんな中で価格競争力のある作物を作るためには、徹底したコスト管理をするほかなかった。
 日本にいては全く想像もつかないことばかりだった。一つ一つがとても勉強になったが、同時に、オーストラリアでの農業の難しさも徐々に感じるようになっていった。

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