仙夜一夜物語

第5回「セールス」

お米は国と農協の管理下にあり、価格競争も無く黙っていても言い値で売れた。「セールス」など無縁の世界である。そこにひとつの光を見出していた仙一は、まだ誰も手をつけていない《農家から企業へ米を販売する》という道で、新しい農業ビジネスモデルを確立しようとした。仙一は東京に飛びお客様の獲得に奔走した。商社マン時代に外食産業や飲食店の方と深い信頼関係を築いていた仙一は、どんどん大手の外食チェーン店に飛び込んで行った。
「農家がセールスか。時代も変わったな。」
と言われるたびに、
「変わったんじゃない。俺が変えてやるんだ!」
と心の底から思った。
お米は厳格な流通ルートが形成されていたため、それに逆らうことは経営者にとってリスクがあり、断られることが多かった。しかし、中には仙一の人柄と情熱に心打たれ、
「お前が作った米なら、買ってもいい。」
と言って下さるお客様もあった。その当時のお客様は今でも大切なマイセンのお客様となっている。
 自分で作った米を自分で売る。まだ珍しかった携帯電話を首からぶらさげて、農作業着と長ぐつ姿で広い田んぼで作業をし、引き合いがあればすぐにスーツに着替えてセールスに歩いた。ボロボロのパソコンに自作のソフトを入れ伝票を作り、銀行に行く暇も惜しんでオンラインで取引を管理する。仙一の目指す新しい農家のスタイルは、日々その形を整えていった。
(つづく)

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