仙夜一夜物語

第4回「起点」

仙一が商社を辞めると宣言した後、彼を慕う部下二人も共に辞めると言い出した。仙一に「ついていく」と言うのだ。二人の気持ちは非常に嬉しかったが、首は縦に触れなかった。
 農業をビジネスとして成功させる自信はある。父から預かった田んぼも七㌶となかなかの規模だ。だが、家族を養うには足りない。それに、農家の息子といえども、仙一は素人、最低一年はみっちり学ぶ覚悟。二人を雇うなど到底無理だと思った。
 仙一の決意を聞き、一人はあきらめがついたようだが、残るSは頑として聞き入れず。
「ダメと言ってもついていく。 一年無給だったって構わない」流石の仙一も折れ、
「それなら一年だけ待ってくれ」
そう頼むとようやっと頷いてくれた。

「さぁて、いっちょやるかぁ!」
気合一番、まず車庫へ。
 車と物を放り出し大掃除、天井から床まできっちり防塵塗料とペンキを塗った。そこへ精米設備を整える。勿論、すべて中古でまかなう。中には「次は必ず工場建てるから」と、口約束で借りたものまであった。車庫から転身、精米所の完成だ。
 事務所も至ってシンプル。共働きである妻の事務所の一角を借り、小さな座卓を置く。その上に電話機ひとつ載せれば出来上がり。
 ようやく一息ついていると、次々と花や祝電が届いた。お世話になった方々からの御祝だ。小さなマイセン事務所は、あっという間に花で埋まっていく。思いもよらぬ出来事に、胸が熱くなった。

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