仙夜一夜物語

第2回「マイセン誕生前夜/2」

 とうとう、順番がまわってきた。緊張などしていないつもりだったが、いつの間にか、掌が汗ばんでいる。背中には、たくさんの視線が刺さってくる。
「ガラガラガラ―ッ」
勢いよく回した抽選機から、これまた勢いよく飛び出た玉の色は...赤や!
 仙一はくるりと振り向いて、言ってしまった。
「みなさん、ご苦労様!大当たりです!」
会場を包む、落胆の声、声。みな一様に悔しそうな顔をして「あいつはどこの誰や?」と、いぶかし気である。それもそのはず、会場にいる者は、大抵互いに顔見知りであったが、仙一だけは、これから農業に踏み出そうという、まるきりの部外者。
 どよめく会場を余所に、仙一は感動をかみしめていた。
「絶対についている。俺にやれと、神様が言ってるんや!」
と、確信した。それまで「決めた」とはいっても、やはり心のどこかに不安があったが、これで、踏ん切りがついた思いだった。

 もう迷うことなどなかった。即、辞表を出し、新会社設立の準備だ。登記や定款作成といった手続きも、全て自分で行った。そして、1週間も待たずして、公証人役場へ。

「これは、何て読むんです?」
公証人の先生が、「米仙」の文字を指して頭をかく。
「『まいせん』 です。お米に、私の名前の1字をつけて、米仙」
嬉しそうな顔に、先生はなるほどとうなづいたが、
「う~ん、一般の方には、分かりづらいんじゃないかねぇ...」
ちょっと考えて、
「片仮名で『マイセン』はどうです?」
マイセン。陶磁器界最高峰、ドイツの名窯。以前、仕事で食器にも携わったことがある仙一は、その偉大さをよく知っている。
 マイセンのように、本当によいものを作りたい。
「それでいきましょう!」

 この時、社名とともにロゴも決定している。その由来は・・・
・稲穂が稔る姿を表現した。
・マイセンの頭文字Mの筆記体をもじった。
・幼い頃、いつもばぁちゃんが仙一に言い聞かせた言葉。
「お米1粒に3体の仏様が宿っとるんやで」
ロゴのお米粒は、右肩上がりに放物線を描いて並んでいる。無限に成長し続けたいという、願いが込められているのだ。
logo.png

ともあれ、こうしてマイセンは誕生した。
 当時、農業生産法人の法人形態は、有限会社、農事組合法人、合名会社、または合資会社であったため、有限会社マイセンとしての船出だった。鯖江市では、1番乗りである(残念ながら県内一ではなかった。平成12年の農地法一部改正後、株式会社マイセンとなったが、これは日本初)。資本金300万のうち、3分の1は仲間達が出してくれた。
「俺は、やるでぇ!」
仙一の胸には、赤々と情熱が燃えさかっていた。

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