仙夜一夜物語

第70回「玄米食への道(12)」

 せっかく商品を作っても、売れなければ意味がない。一体どこで、どのように、どうやって売るのか? 仙一は商品を作ることに夢中になって、そんな当たり前のことを真剣に考えていなかった。
 一回当たりの製造ロットを最小限に抑えてもらっても、何千パックも出来てくる。その当時も一般個人のお客様向けに通信販売をしていたが、お客様の数も少なく、今のようにインターネットがあるわけでもなかったので、どのように広めたらいいかに頭を悩ませた。
 商品が良ければ売れるという幻想は抱いていなかったので、これまでの方法とは全く異なった方法を模索した。スーパー向けに営業をかけることも考えたが、何せ営業マンは仙一ひとり。そうそう手が回るものではなく、かえってお客様に迷惑をかけることが心配だった。
 仙一は、何故この「玄米あずき粥」を開発しようとしたのかという原点に立ち返って考え直すことにした。食べ物が健康の基本であり、食べ物を見直してもらうことで病気を防いだり、治癒して欲しいと考えてのことだった。そして、その食の素材として「玄米」が優れているから、玄米食の入門用としてのポジションだったはずだ。
 玄米に先入観もなく、美容や健康に関心があり、流行にも敏感な女性に知っていただければ、自ずと広がってゆくのではないかと考えた。その女性たちにターゲットを絞り、いろいろな手段を考えてみたが、仙一はエステサロンに的を絞り込み、個人店ではなく大手のチェーン店に営業をかけた。テレビコマーシャルを流している大手を次々に訪ねたものの、大抵は「当社では食品は扱いません」と断られることがほとんどだった。門前払い同然でも、何らメゲることもなく必ず分かってもらえると信じて営業活動を続けた。「神様が俺の本気度を試しているんだ」といったくらいに脳天気に考えていた。セールストークはいつも決まっていた。
「エステサロンは身体の外から施術をして、美しく痩せていただくのでしょうが、この玄米あずき粥で身体の内側からも綺麗になっていただければ効果は倍増します」
 捨てる神あれば拾う神ありで、面白いからテストして見たいという会社が現れたのだった。三十名の男女にモニターになっていただき、一ヶ月間だけ一日一食玄米あずき粥を食べていただくというテストだった。玄米あずき粥を食べる他には制限を設けず、普通に生活していただいた。
 果たしてその結果は...。(つづく)

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