仙夜一夜物語

第66回「玄米食への道(8)」

 人の好みは千差万別で、モチモチした食感は感覚に負うところが大きいので難問であった。これは玄米に限らず、日本人がお米に求めて止まない食味の一番目である。このモチモチしたお米を育てるために、様々な実験を仙一は惜しまなかった。
 お米が育つには春から秋にかけての月日を要する。年に一度しか収穫できない代物故だ。最初の頃は、文字通り一年をかけて幾つかの実験を行った。良い結果が出れば、翌年にその検証を行うといった具合で、実に気長な年月がかかった。「こんな悠長なことでは、あっという間に歳をとってしまう!」という焦りが、不安をかき立てる日々が続く。
 そんな時、ガーデニングを趣味とする妻がお花を育てる様子から、「花は正直だ」ということをつくづく感じていた。肥料や世話の良し悪しが、花つき、色ツヤなどですぐに分かるのだ。しかも、花は稲よりはるかに成長が早い。
 「花を稲に見立ててみてはどうか?」という思いが頭をよぎり、早速実験してみた。思った通りだった。花に効果があるものは、稲にもお米にもいい結果が出た。こうして、幾つもの種類の肥料や肥料をやるタイミングなどを試して、美味しいモチモチしたお米の秘訣を発見した。天候はどうすることも出来ないが、お米の味はコントロール出来ることに自信を持った。
 いくら美味しいお米を育てても、最後の工程である「炊飯」は仙一の手を離れる。炊飯の良し悪しでも、大きく味が左右されることを消費者は知らないことに、仙一は驚いた。美味しい玄米の炊き方を研究し、マイセンの玄米に適した炊き方をマニュアルにして、玄米に添付することにした。初めて玄米を炊く人でも、マニュアル通りにすれば、一様に「おいしい」と喜んでいただけるようになった。
 ようやく、「美味しい玄米をお届けする」という永年の夢が叶ったのだった。

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