仙夜一夜物語

第58回「マイセンのビジネスモデル(9・完)」

  営業先へ行って、持参したルーペとカルトン(※)を使って、実際にお客様の目の前で米をより分けて見せる。
 そうすると、価格が安い米には、必ずといっていいほど、一定比率で規格外の米が混ぜられていた。 明らかに作為的である。規格外の米を流通させることは別に違法ではなく、価格調整のためによくとられる手段だったが、そういった流通の仕組みも、それまでの仙一は知らなかったことだった。
 生産者は米を作るのが仕事だから、「いかに品質の良い米を作るか」ということばかり考えていたが、実際にお客様の手元に届くまでには、いくつものハードルがあった。価格がどうか、扱いやすい米か、物流や保管はどうか...。
 仙一は、生産者として米を売るのだから、それら全てを把握していなければならない。つまり、米を収穫してお客様の口に入るまでが自分たちの責任なんだと、この頃から考えるようになった。
 値段が適正で、安定して供給することができて、定食のご飯でも寿司飯でも、お客様が美味しく食べられるお米...それがマイセンの目指すもの、仙一が売るべきものになった。
 「これが正真正銘の農家の米です。ごまかしのない本物の農家の米を産直でお届けします」。
 最初は、「おたくの米は美味いが高すぎる」と、値段ばかり言われて、なかなか成約に至らなかったが、それでも仙一は方針を変えなかった。直球勝負のみである。そのかわり、味も品質も安定して供給できる。
 そうするうちに、高くても買ってくれるところが出てきた。
 「何種類も炊飯して比べてみましたが、次の日でも美味しかったのは、マイセンのお米だけです」。
 ある大手企業のバイヤーがそう言ってくれて、仙一は涙が出るほど嬉しかった。
 これで間違っていなかった。
 それから20年、米を取り巻く環境は変化を遂げ、価格も変わっているが、マイセンの目指すものは今も変わらない。お客様の口に入るまで、責任を持ってお届けするのがマイセンのビジネスモデルである。(完)

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