仙夜一夜物語

第57回「マイセンのビジネスモデル(8)」

 S社の件で自信をもった仙一は、どんどん外食産業に向けて売り込みに行った。
 たいていは卸会社が出入りをしていて、いわば彼らの言うなりに米を仕入れていたので、農家だというと、珍しがられ歓迎された。
 「米屋は信用ならんでなぁ」。干ばつや冷害で米の不作が続き、全国的に米騒動が起こっていた。米の流通を一手に担っている「米屋」は、不信感を持たれていた時期だったのだ。
 仙一が農家だと知ると、彼らは逆に様々なことを聞いてきた。米の育つ土壌や水、米の育て方などには研究を重ねて、自信もあったが、実際に米を使っている調理人たちが聞いてくるのは、そんなことではなかった。
 どうやって精米すれば美味しく食べられるか? どうやって保存すれば、鮮度を保てるか? 炊飯方法は? 定食のご飯に使う場合と寿司飯にする場合の違いは?
 彼らの立場に立って考えてみれば当たり前の質問なのだが、聞かれてみると、知らないことも多かった。消費者が知りたがっていることについて、まだまだ勉強が足りなかった。
 ある時、「これ、うちで使ってる米なんだけど、どういう米かわかるかね?」と言われて、精米された米を出されたことがある。
 さすがにそれだけでは品種まではわからないが、よくよく見ると、米粒の大きさがバラバラである。
 「これは、混ぜ物じゃないですか」。
 収穫時の米の中には、未熟なものや割れたもの、小さな粒のものも混ざっている。これをふるいにかけ、一定の水準を満たしたものだけを出荷するのだが、明らかに規格外の米が混ぜられていた。同じ品種でも価格に差が出るのは、このためだ。
 仙一は、良い米しか見たことがなかったから、そういう仕組みについては全く知らなかった。規格外の米でも流通させる方法がちゃんとあり、そうやって価格調整されていたのだ。
 それ以来、仙一はお客様回りをするときには、ルーペやカルトン(※)を持って行くようになった。 どうやってお客様にマイセンの米をアピールすればよいのか、だんだんわかってきた。(つづく)

※カルトン...米を見るための皿

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