仙夜一夜物語

第56回「マイセンのビジネスモデル(7)」

 当時のS社レストランは、農家から直接野菜を買い取るなど、質の高い食材を積極的にとりいれていた。それで、仙一もS社にマイセンの米を売り込むことを考えついたわけだが、そういう社風を反映してか、担当者も実に熱心に仙一の話を聞いてくれた。
 そして、なんと「わかりました、あなたの米を買いましょう」と言ってくれたのである。
 「ええっ!本当ですか!?」と、大喜びしたのもつかの間、問題はそこからだった。
 「うちのレストラン1店舗で大体このくらい米を消費するので、トータルでこうなりますね。このくらい準備してほしいんですが」
 担当者が口にしたのは、まあとんでもない量だった。その100分の1の量ですら、当時のマイセンの生産量ではまかなえなかった。
 相手は日本全国に店舗を構える一大チェーンであるから、仙一としても、ある程度予想はしていた。全部の店舗分は無理でも、ある特定地域に絞って使ってもらえないかと考えていたのである。
 そこで何度か交渉をしてみたが、先方の流通の関係上、特定地区のみ米を変えるということが難しいらしく、また、特定地区のみに絞ったとしても、仙一の予想を遥かに上回る、とんでもない数量だったのである!
 巨大なビジネスチャンスであったが、泣く泣く諦めざるを得なかった。先方もとても残念がってくれ、「大きくなったらまた来てくださいね」と言ってくれた。
 マイセン2年目のこの出来事は、仙一にとって大きな自信となった。
 あれだけの大会社が、本気でマイセンの米を採用してくれようとしたのである。マイセンの米が対企業で十分通用することがわかったと同時に、直販を行うためには、米の質や価格以外にも、様々な点をクリアしなければならないことも勉強した。
 そして、それまでは「農家」として、米の育て方や品質のことばかり頭にあったが、実際の消費者が知りたがっていることは、そればかりではなかった。
 そのことに気づかされる端緒ともなったのである。(つづく)

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