食べ物を食べるということは、もちろん生きていくための栄養を摂ることでもあるが、ただそれだけではないと、仙一は思っていた。
植物も動物もいのちがあって、食べるということは、まさにそのいのちをいただくということに他ならない。米だって稲が育んだ「いのち」だ。ありがたく感謝していただいて、自分たちが生きていく糧とさせていただき、そのいのちを次につないでいく...そういうことが大事なんじゃないかと思っていた。
ただ栄養を摂るだけだったら、サプリを飲んでおけばよい。実際にそういう人もいるし、それを否定するわけではないが、何かが違うんじゃないかと感じていた。
「どうせなら、いのちのあるものを作りたい!」
時間をかけて、土作りから始めた。化学肥料を使わず、農薬も使わず、どじょうやタニシでいっぱいの田んぼになった。稲も、既存の機械では規格外になってしまうくらい、丈夫に立派に育った。
そこまで大事に大事に育てたんだから、絶対いのちのあるままお客様にお届けしたい!!
さて、それをどうやって実現するかが、難問だった。
仙一はビジネスとして農業をやっているわけだから、効率というのも無視はできない。昔ながらのはさがけでは効率が悪すぎる。だが、米のいのちを保ったまま仕上げるには、太陽の力を借りるのが一番なはずだ。
いろいろな施設を見に行った。相談もしたが、なかなか相手にしてくれない。「今更、はさがけには戻れんやろ」。自然乾燥なんて無茶だと言うのだ。
別に、はさがけをしたいわけではない、いのちがある仕上げをしたいだけだ。きっとどこかに答えがあるはず...。
唯一、その時良い方法として、除湿乾燥機を使う方法があった。火力の代わりに、巨大な除湿器を使って米の水分を飛ばすのだ。これは、米にとっては素晴らしい方法だった。均等にムラ無く乾き、仕上がりが素晴らしかった。
ただ、この巨大な除湿器がやたら電気を食った。なんと火力乾燥の5倍以上もの光熱費がかかった。機械そのものも高くて、火力乾燥機の2倍の値段だった。機械の値段は導入時だけだから、まだ我慢できるとしても、ここまでランニングコストがかかりすぎると商売にならない。
そこで、また違う方法を探しに行った。今度は、大学などの研究施設や、メーカーなども廻ることにした。
(つづく)