仙夜一夜物語

第44回「「いのち」をつなぐ~自然乾燥への挑戦(1)」

 仙一の家は、農家だったから、子供の頃から農作業を手伝わされていた。その頃の乾燥方法といえば、木で作った柱に横棒を渡し、それに刈り取った稲をかけて、お日様で乾かす「はさがけ」だった。
 お日様の力でざっと乾かしてから、その後、わらともみを分けて(脱穀)、もう一度もみになった米をむしろの上で干した。全部お日様の力だった。
 均等に乾かすために、むしろの上で鍬を使って天地替えをするのが、子供や年寄りの仕事だった。仙一も子供の頃から手伝わされていたので、米はこうやって時間をかけてお日様に乾かしてもらってから食べるんだと、当たり前のように考えていた。
 ところが、いざ自分で農業を始めてみると、乾燥方法一つをとってみても、随分と様変わりをしていた。
 お日様まかせということは、天候によって出荷できる時期が左右されてしまうので、なるべくお日様に頼らなくてすむ方法に変っていきつつあったのである。
 むしろでお日様に当てて干すという工程が、室内に設置した大きな機械に、灯油バーナーの熱風を送り込んで乾燥させるように変っていったし、コンバインが本格導入されて、刈り取りと同時に脱穀をするようになると、さらにその傾向は進んだ。水分量の多い生もみは、できるだけ速やかに乾燥させないと、カビが発生してしまうなど、貯蔵することもできなかったからだ。
 より強力な灯油バーナ-を使うようになり、胴割れ(※)が起きてしまうほどの、米にとって負担の大きい方法になっていった。そうやって乾かした米というのは、米そのものを撒いても芽が出ない。乾燥させる過程で、「いのち」が失われているのだ。だから、種もみ用の米は、同じ工程を通さずに、ゆっくりと熱をかけずに乾かしていたのである。
 農家の間では、それが当たり前だった。
 「何かおかしくないか?」
 せっかく、時間をかけて農薬や化学肥料を使わずに米作りをして、大切に大切に育てた米を、なんで最後の最後で、自分の手で殺さなきゃいけないんだ?
 当時のはやり言葉に、「ビールは鮮度がいのち」というのがあった。
ビールでさえ「鮮度がいのち」と言ってるのに、主食のお米の鮮度を気にする人は誰もいない。それが不思議でならなかった。
 「よっしゃ、『いのち』のある米を作ってやろうじゃないか!」
 (つづく)

※胴割れ...胴割れとは、米粒の胚乳部に生じる亀裂。高温による急激な乾燥、水不足などで生じ、食味や精米精度が落ちる原因となる。

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