仙夜一夜物語

第42回「残留農薬検査へのこだわり(3)」

「正気ですか?いったい、何をする気なんですか?」
 玄米のサンプルと共に、意気揚々と乗り込んだ仙一に対して、応対してくれた研究員は、明らかに不審そうな様子で、こう言った。
 当時は、残留農薬検査を行う人はほとんどいなかったので、検査を行うのに、莫大な費用がかかると言う。
「いくら?」
「成分にもよりますけど、1項目2万から20万くらいですかね。これ、200種類ですか? ざっくり見ても2~3千万はかかりますよ。こんな検査する人誰もいませんよ」
「2千万!?」、思わず耳を疑った。てっきり、10~20万程度も出せば、全ての項目が検査できると思っていたのだ。
 当然ながら、そんなお金があるはずもない。仙一が悩んでいると、少し気の毒に思ってくれたのか、研究員がこう提案してくれた。
「どうしても検査したいなら、気になる成分だけに絞って4~5項目にしたらどうです?」
 金銭的な余裕があって検査をするわけではなかったので、仕方なく、その提案に従うこととした。その研究員と相談しながら選んだのは、5項目。農協や福井県の農業関係機関に問い合わせて調べた、この辺りで一番使われている農薬の代表成分だった。この検査機関ではできない高度な検査方法を使う必要があるから、東京へ送るという。結局、たった5項目だけでも合計30万かかった。
 予定とはちょっと違ってしまったが、それでも検査に出すことができた。これは、誰のためのものでもない、自分に対する確認だった。自信を持って自分の米を売るための根拠になるものであり、また、安全、安心であることの担保でもあった。自分自身も玄米食を始めていたし、まだ小さい子供にも玄米を食べさせ始めた。健康にいいから、と思って始めたことなのに、農薬が残っているのではないか、という不安を抱きながら食べさせたくはなかった。
 検査の結果が出るのに2~3週間かかるというので、その間、ドキドキしながら待っていた。田んぼに棲んでいる、たくさんのドジョウやタニシが安全を証明してくれているはずだ、と思いつつも、一抹の不安をぬぐいきれない日々だった。
 3週間後、ようやく検査機関から連絡がきて、結果を取りに行った。
 検査に出した5項目全てにおいて「検出せず」。一切、農薬成分が検出されなかったという証明だった。
 安心した。
 自分のやろうとしていることは間違いではないんだということを確認できた瞬間だった。

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