仙夜一夜物語

第39回「平成6年の大干ばつ(6・完)」

 8月16日。地元の神社の祭りの日、準備の合間を見て、仙一はあいもかわらず田んぼに水を運んでいた。空が陰ってきたのを感じ、ふと作業の手を止めて空を見上げた。「もう、そんな時間か? 祭りが始まる前に戻らなければ」。時計を見ると、まだ16時前だ。真夏のこの時期、夕暮れにはまだ早い。
 「もしかすると...」。この2ヶ月ばかりの間、いつも期待を抱いては何度も裏切られた、
その同じ思いで、もう一度空を見上げた。間違いない、雨雲だ。大きな雨雲がものすごいスピードでこちらへやってくる。10分以上も空を見上げていただろうか、淡い期待はやがて確信に変わった。
 「こりゃ降るぞ!」
 あっと言う間に空は真っ暗になり、ポツポツと降り始めた雨は、すぐに強い勢いで地面を濡らし始めた。
 「やったぞ!!!」仙一は思わず声に出して叫んだ。いつのまにか大粒の涙が頬を伝い、激しく降ってくる大粒の雨と入り混じって何も見えなくなった。今まで頑張ってきた稲たちへの天からの最高の贈り物だった。仙一に対しても、「今までお疲れさま」と雨と稲たちがねぎらってくれているような気がして、なんだか照れくさかった。
 この雨は夜までずっと降り続いた。
 その後は定期的に雨が降るようになり、ようやく水不足は解消されて無事に収穫を迎えることができた。ほとんど枯れかかっていた一番ひどい田んぼでも、規格外の小さなお米ではあったが普段の収穫量の7割はとれた。稲の生命力に驚くばかりだった。
 農業とはこういうことなんだ。
 自然はその大いなる力で生命をはぐくみ、それをお手伝いさせていただくのが農家で、お世話をさせていただく仕事が農業なのだ。農家(自分)が米を作るとの考えは百姓のおごりだ。どんな困難が起こっても、一生懸命やれば、きっといつか自然は助けてくれる。自然の偉大な力に、ただただ感動し、感謝の気持ちでいっぱいになった。
 この平成6年の大干ばつは、100年に一度の大干ばつだった。平成5年に100年に一度の冷害が起こり、次の年には100年に一度の大干ばつ...なんと、200年来たぞ! と仙一は家族と笑いあったものだ。平成4年にマイセンを立ち上げ、平成5年~6年と、とんでもないマイセンの船出となったが、自然の大いなる力を学んだ貴重な2年でもあった。(平成6年の大干ばつ・完)

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