仙夜一夜物語

第37回「平成6年の大干ばつ(4)」

 「稲たちを助けてやりたい!」
 この田んぼは水利が悪いから、ここは捨てて向こうの田んぼに水を回そう...それまで考えていた打算的な思いは、一瞬で吹っ飛んだ。
 田んぼではとっくに水が干上がり、大地に大きく口を開けたひび割れが痛々しかった。そんな中でも稲たちは、必死に夜露を集めて穂を出そうとしているんだ。ここで稲たちを救わないと何が農業人だ!
 そこから、仙一と太陽との根競べが始まった。
 3トン入るタンクを買ってきて、それをトラックに積み込み、共同で水を汲める川から水を運んだ。汲み取り口までは約30分、みんなが水を汲むために順番待ちをしているので、その列に並び、タンクに水をいっぱいにすると、そのまま田んぼに戻って水を流し込んだ。
 乾ききった田んぼにとって、たかだか3トンの水は、まさに焼け石に水だった。3トンを流し込んでも、1メートル流れていくかいかないうちに全て吸い取られてしまい、とても田んぼの奥まで水が届かなかった。ホースを使い、まんべんなく流れるようにしてやったが、田んぼのひび割れは、ちっとも小さくなったようには見えなかった。
 これを1日に何回も繰り返した。行って帰って行って帰って...往復と待ち時間を入れると、1日に20回くらいが限界だった。
 食事もとらず、24時間体制で朝から晩まで、来る日も来る日も川に通い続けた。そんな仙一をあざ笑うかのように太陽は容赦なく照りつけた。少し雲が出てきて「今度こそは...!」と思うと、あっという間に風がやってきて、淡い期待と共に雲を押し流してしまうのだった。
 「絶対負けんぞ。稲を守ってやるんだ!」

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