仙夜一夜物語

第32回「光合成細菌の実用化(1)」

 光合成細菌の素晴らしいところは、土の環境を整えてくれることだ。
 稲は大地に根付いて稲穂を実らす。その土地の土がどういう性質で、どのような微生物環境にあるかは、当然、稲の生育状況に影響を及ぼすはずだが、農業を始めたばかりの仙一は、そこまで思い至らなかった。
 植物が栄養を吸いやすい、病気になりにくい...それらは、その土が持っている微生物環境に大いに左右されるのだ。
 元々、福井でもマイセンのある丹南地区というのは、悪く言えば「沼田」で整地には適さなかったが、稲にとってはよい土地だった。何もしなくてもお米がとれる稲作地帯だ。
 おかしなことに、その丹南地区でも昔から「良い田んぼ」と「悪い田んぼ」があり、その違いは、水や日当たりだけでは説明がつかなかった。「良い田んぼ」では、いつも、穂の数も多かったし実の熟する度合いも良かった。大凶作の年でもある程度の収穫量は確保できていた。
 「幸いうちはなんともなくてなぁ」
 大凶作の時にそう言っていた農家があり、仙一はそれをうらやましく聞いていたものだが、そこは「良い田んぼ」だった。
 おそらく、田んぼの土の環境が違っているのだ。
 光合成細菌は、マイセンの田んぼ全部を「良い田んぼ」にしてくれそうだ。
 早速、光合成細菌を注文した。マイセンの田んぼ全てに使おうと思うと、ものすごい量になり、費用も恐ろしく高かったが、凶作の恐ろしさに比べれば大したことはなかった。たった一日で、ようやく出始めたばかりの稲穂がどんどん枯れてゆき、田んぼが真っ赤に染まる...あんな光景を二度と見たくはなかった。
 届いた光合成細菌は、濃度の濃い赤紫の液体だった。
 田んぼで撒いていると、隣のおっちゃんたちが「何してんのや?」と興味津々で聞いてくる。どうにも答えようがなく、「梅干の汁や」と答えた。当然、「変なヤツやなぁ」と言われた。
 驚くことに、撒いてからすぐに効果が出始めた。

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