仙夜一夜物語

第25回「大凶作(3)」

 平成5年は冷夏の年であった。イモチは気温が低く多雨の時に発生しやすくなる。
 長雨による冷夏は、他にも様々な影響を及ぼした。
 イモチに感染しなかった田んぼもあったから、気を取り直して刈り取りを始めたが、いつもと勝手が違う。長雨のせいで田んぼがぬかるんでいて、刈り取るためのコンバインが田んぼの中で動けなくなってしまうのだ。
 マイセンのお米は出来がいいから、稲穂がたくさんついている。そして広い田んぼを少ない人数で刈り取るために、通常のものより大型のコンバインを使っていた。これらがかえって仇になった。たくさんの稲穂が付いていることで、その重みで稲がどんどん倒れていったし、大型の機械はぬかるみの中では思うように動けなかった。
 倒れた稲でじゅうたんのようになってしまった田んぼをなんとか刈り取っても、ぬかるみの中で思うように動けないコンバインが、倒れた稲を踏んでいってしまった。せっかくイモチ病から助かった稲ですらダメになったし、コンバインもぬかるみの負荷で故障を起こしがちだった。
 良かれと思ってやったことが全て裏目に出る。コンバインの上でぬかるみと格闘しながら、やり場のない感情がこみ上げてきた。
 「こんな機械、川から落ちたことにして捨ててしまおうか...そうすれば補償が出るし...」。そんなバカな考えも浮かんだ。結局、小型のコンバインを1台買った。小型といっても700万はする。キャタピラも特殊なものに変えた。
 お金ばっかりかかった。
 稲が倒れているから鎌で刈る。気の遠くなる量を刈っているうちに、鎌で指を切った。小指が縦から半分に切れて、指が6本になった。ガムテープで止めながら作業を続けた。田んぼが真っ赤になってしまい、しょうがないから病院へ行った。
 自分の指を切ったから何もできなくなった。
 ふんだりけったりで、毎日イライラしていた。
 「百姓とはなんておぞい(※)仕事だ」
 良かれと思ったことが裏目に出てばかり。金ばっかりかかる。
 新社屋がたったばかりでこの有様だ。借金は山ほどあるし、これからどうしよう? 暗澹たる気持ちになった。
 そこへ、農協は米をもってこいというし、食料事務所は法律違反だという。
 惨めな気分だった。
 しかし、この年、苦労をしていたのは仙一だけではなかった。米農家全てが同じ苦労をしていた。そしてこれからが、その苦難の本番だった。
 「平成の米騒動」である。
 
※おぞい...福井の方言。みっともない、ひどいなどの意

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