仙夜一夜物語

第13回「農協との確執(下)」

「融資はできん」。
 何を言われているのか理解するのに、数秒かかった。事前に農協に提出した計画書もOKをもらえている。起工式にも来てくれた。農協とは色々な確執もあったが、なかなか太っ腹じゃないかと思っていた矢先だった。
 「なんやそれ??」、思わず大声で怒鳴った。わけがわからなかった。県の担当者も理由は知らなかった。
 翌朝になるのを待って、朝一番で農協へ行き、担当者に理由を問い質したが、「ハンコは押せません」の一点張り。計画を立て手付金も払い、整地も済んでいる。豊かな自然を壊さないように、動物や植物などが住む土地表面の土をあらかじめ取り分けた上で整地をし、耐圧テストも行った。「大地は自然から借りているものだ、生きているお米を作ろうとしている人間が、動物や植物への感謝の気持ちを忘れてはいけない」、という仙一の想いがつまった自慢の土地だ。だが、自慢の土地にするにはお金もかかった。
 「この整地済みの土地をどうしたらいいんや??」そう尋ねた仙一に返された農協担当者の言葉は、「マンションにすればいい」。
 周りには田んぼしかなく、鳥やカエルしか住まないような場所だ。マンションにするような需要があるとは到底思えない。仙一には一生忘れられない、侮蔑の言葉だった。
 カッとなったが、どうしようもできない。仙一はがっかりして家に帰った。
 「実はなぁ...ダメの一点張りで、金かしてくれんのや。金ないとどうしょうもないし、もうあきらめようか」、つい泣き言を妻の幸子にもらした。
 すると、幸子はこう言って仙一を怒鳴りつけた。
 「だから言ったんですよ。そんな中途半端な気持ちでやるんだったら最初からやらなければよかったのよ。やるなら、とことんやらなきゃダメでしょ! 田んぼでも家でも、生命保険だってあるでしょ。使えるものは全部使って、お金をかき集めてくればいいのよ!」
 女性は強い。幸子のその言葉で目が覚めた。次の日から、金策にかけずり回った。自分の生命保険を担保に、「ダメだったら、死んでお詫びします!」と何度も頭を下げた。「死んでお詫び」にはさすがに苦笑いをされたが、仙一の熱意が伝わったのか、なんとかお金を借りることができた。
そして、ようやく施設の着工に入る。仙一の「マイセン」が、ようやく一人前の顔をして企業の仲間入りをしたのである。
こういった一連の農協との確執は、仙一を崖っぷちに追い込みもしたが、そのお陰で全ての甘えを捨て去ることが出来た。仙一を、そしてマイセンを成長させてくれたのは、ほかならぬ農協であったかもしれない...今になってみると、仙一はそんな風にも思えた。
後に、農協とはある方法で和解を果たすことになる。

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