仙夜一夜物語

第11回「農協との確執(上)」

 当時、米の販売は国の管理統制の下に置かれていて、農家が直接米を販売することは認められていなかった。ただし、「特別栽培米制度」を利用して、あらかじめ顧客の名簿を食糧事務所に提出しておくことにより、1人あたり年間120㌔までは販売することができた。仙一もマイセンのお米を予約してくれた人たちの名簿を、あらかじめ食糧事務所に提出していた。農協には何の関係もない。それなのに、その情報が流れていたのだ。
 仙一は驚きと怒りで一瞬我を忘れかけたが、お客様には何の責任もない。むしろ、農協にそんなことを言われて不安なのはお客様だ。お客様の心配を取り除いてあげなければいけない。
 仙一は、電話の向こうに気づかれないように、深呼吸して心を落ちつけてから、お客様にはこう答えた。「きちんと法律で認められたとおりにやっていますから、ご安心下さい! もし万が一何か都合の悪いことが起こっても、お客様にご迷惑がかからないように私が全て責任をとりますから安心して下さい!」。お客様に迷惑がかかってはいけない、その想いを一生懸命電話で伝えた。
 同じような問合せがそれから何度もかかってきた。仙一はその度に心をこめて説明をしたが、天下の農協と、生まれたばかりの名も知られていない弱小会社。なかなか信用してもらえなくて、離れていったお客様も多かったが、こんな風に言ってくれたお客様もいた。「今いろいろ騒がれていますが、負けずに頑張ってくださいね。故郷のおいしいお米を食べるのを楽しみにしていますから」。仙一は涙が出る思いだった。絶対にお客様を裏切るようなことはすまい、マイセンがどんなに大きくなっても、その気持ちだけは絶対に貫こう。「『一番大切な人はお客様』、お客様ありきの会社運営を行う」。創立十数年を経て、売上高十億を超えた現在でも変わらぬ、マイセンの信条の一つである。
 農協との確執はこれだけに終わらなかった。マイセン設立の翌年、今後のマイセンを決定づける、ある出来事が起こった。

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